食事、排泄、衣服の着脱といったいわゆるADLに関する指導と社会生活を営んでいく上で守っていかないといけないルールをどのように伝え、身につけていくかについて整理していきます。もちろん個々の実態や発達段階、運動機能等によって課題は変わってくると思います。その子にとってがんばれば達成できそうな課題を見つけていくことがまず必要になります。さらにそれをスモールステップ化していくことも必要ですし、いつどこで指導するのかという指導場面を決めていく必要もあります。そのための指導としてどのような方法にするのかも考えておくことも必要となります。
こういう課題については、できるできないがはっきりと現れる場合が多く、結果が明確であるために、指導する側としても結果を出すことに思いが集中してしまいがちになります。そのため熱心さのあまり子どもには何をもとめられているのか分からなくなるような場面もあります。状況を見極めながら丁寧に対応していくことが大切になります。
Ⅰ、食事指導について
生まれてからすぐに経管栄養になった場合など、食べられるようになればすぐに食べることができるかと言えばそうではありません。細かな段階を踏みながら、出てくる問題点に一つ一つ対応しながら、少しずつ上手に食べられるようになってくるものだと思います。脳性マヒなど、食べる機能に障害がある場合にも適切な対応がひつようとなります。このあたりの指導については、経験豊富な言語療法士の先生とよく相談しながら取り組んでいくことをお薦め致します。
1,偏食について
ここでは、食べ方についてもっともよく話題となる偏食について考えたいと思います。
偏食は多かれ少なかれ、多くの人に見られるものですが、小さい頃からの食事指導により随分変わってくるものです。通常であれば、多少の好き嫌いはあっても、お腹が空けば食べてしまうこともありますし、楽しい雰囲気の中で思わず食べてしまうようなこともあります。そうしたことで、大人になるに従い偏食は少なくなってくるようです。しかし、発達障害や知的障害などがある場合、そういう気持ちの調整がうまくできず、年齢が上がってくるに従い、偏食が固定化し、食べられるものが限られてくると行った状況になる場合もあります。
では、どのように対応していくかですが、「嫌いなんだから食べないのは仕方がない」と思った時点で、指導はなくなります。「好き嫌いせずに何でも食べられるようになってほしい」というしっかりとした強い思いをもつことで、課題が生まれてきますし、その思いが指導を進めていく上での自分のエネルギーになります。従って、偏食をなくしたいという思いがあるのなら、その思いを強く持ち続けてください。仕方ないかなと言う妥協が余計に子どもに混乱を生じさせていくこともあります。
偏食の多い子どもの中には、食事(場面)そのものが苦手という場合があります。偏食が多いから苦手になったのか、苦手だったから偏食になったのかの論議はさておき、元来食事は楽しいもの。楽しい雰囲気作りを心がけその子が食事(場面)を楽しめるようになって偏食がなくなったというケースがあります。基本的に食事はトレーニングの場ではなく、楽しい場面でありたいですね。
発達に障害のある子どもの場合には、なかなかそう簡単には進みません。特に自閉症の子どもさんの偏食に対する意識はとても強いものです。自閉症の指導の中で、この偏食指導が比較的効果が上がると実感しています。ある成人施設に行き、食事の様子を見ていてそう思ったのですが、小さい頃極端な偏食だった方が、出された物のほとんどを食べていました。とは言いましても、その子どもはいずれかの時期に家庭や学校で、食事指導をきちんと受けてきたと言うことです。ただし、ずっと好き勝手に食べさせてきた、あるいは食べてきた子どもは大人になっても強い偏食を残しています。
このことからしても、適切なしつけ・指導・教育をするかしないかということは、自閉症児の成長を大きく左右するものだと考えます。もちろん、中には一部、それ相当な指導、しつけをなさったにもかかわらず、大きな問題を抱えている場合もあります。
なぜ偏食指導をするかということですが、栄養面もさることですが、一番大きな理由は、この偏食指導がすべての親子関係、しつけのベースになっていると考えることができるからです。何よりも大切なことは親と子の心理的な関係にあると思います。「何とか食べていただきたい。」「食べてほしい。」とひたすら懇願するような気持ちと、子どもの方は「それほど頼むなら食べてやってもいいぞ。」、あるいは「お母さんがそんなに言うなら絶対に食べない。」この両者の関係は、生活のすべての面におよんでいく恐れがあります。そしてしつけの面で徐々に難しくなっていくということがあります。
では、なぜこの偏食指導が効果の出やすいものであるかというと、おなかが減ったら食べるという原理が存在するからです。一度や二度食べなくても死にはしないのだから、時にはこちらの毅然とした態度がどうしても必要になることがあります。そしてそれは早い時期ほど、短時間で、しかも混乱も少なくできるようになります。中学生になるころには、ほとんど不可能に近い状態になっているかもしれません。
では、どのようにするかというと、具体的には間食をやめさせる、食事の時間を守らせる、食事の内容を固定化しない。この子はこれしか食べないということで、どうしてもある特定のものにだけするのでなく、いろいろなものを入れておく。基本的には生活を変えていくということです。生活を変えていくと、子どもは徐々に変わっていきます。後は調理法を工夫するとか、時には冷蔵庫の中を空っぽにしてみせるとかも必要かもしれません。
ある4歳児のケースですが、食事をスプーンに入れて口元へ持って行くと口をへの字にして頑として食べないという意思表示をしてきました。これほどはっきりした意思表示があまり見られないので、お母さんにとっては、そんな風に意思表示してくれるのは、うれしいことであり、その意思表示を受け入れてきたのですが、私はその時、頑とした意思表示に対して、頑として食べさせるという意思表示をしました。こちらがはっきりとした意思表示をすることで、その子は自分から口を開け食べました。二口目からは、何事もなかったかのように自分から食べるようになりました。希な例なのかもしれませんが、そういうことも現実にはあります。面白いのはその時から、私に対する意識が変わってきて、視線をよく合わせるようになり、自分から関わってくるようになりました。これは、10歳を過ぎてからであるとこんな風にはいかなかったと思います。
少し偏食から話は逸れるかもしれませんが、食事の遅い子って結構いてて、家庭や施設、常に早く食べなさいと言われ続けているケースがあります。早く食べないと片づけができないからとか、遊ぶ時間がなくなるよとか、いろいろ理由をつけられてせかされるわけですが、その子にとっての食事場面ってどうなんでしょうか。楽しいでしょうか?せかされる場面であり、叱られる場面であり、だんだん苦痛になり、余計に遅くなってしまう事ってありませんか?どんな場合もあるかもしれませんが、例えば思いっきり量を減らして、今日は早く食べられたねって誉めてあげたらどうでしょうか。随分と食事場面の受け止め方が変わってくるのではないでしょうか。もう少し食べられる?って聞いて、お代わりできたらすごいねって誉めてあげたらどうでしょうか。基本的にはそういうことが大切なんじゃないかと思います。食事に対する自信や意欲が、しっかり食べようとする思いにつながってくるのではないかと思います。
2,食事のマナーに関すること
他に食事の問題として、食事の時に人の食べ物に手を出したり、あるいは手づかみで食べたり、気に入らない物があると食卓のものをひっくり返したりする子どもさんもいます。そんな状態になると、どうしても仕方なく本人の望むように食事をすすめてしまう面もありますが、少し工夫してご家庭の事情が許されるなら、少し時間をずらしてみて、お母さんがつきっきりで子どもの食事の様子を見、少し状態が良くなってから、家族と一緒に食事をさせるという指導もできるのではないかと思います。 そのままで良いわけでは決してないので、どこかで真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。
こんなケースもあります。まず、手づかみでも自分で食べられるようになってくれたらいいのではということで、手づかみさせてしまったケースです。始め少し手づかみで食べはしたのですが、すぐに食事を使っての感覚遊びになってしまいました。それでも時々は口に運んでくれるので、仕方がないかとその行動を認めてしまいました。すると感覚遊びだけが強化されていき、口へ運ぶということがなくなってきました。例え運んだとしてもすぐにそれを取り出して、また感覚遊びになってしまいました。食事を使っての感覚遊びを徹底的に外し、スプーンで3食べる練習を行ってきました。今はスプーンを使って食べられる用になっています。感覚遊びを十分にさせれば自然とスプーンを使うようになるという思いで展開されていたら、スプーンを使うことなしに食事することが定着していったのではないかと思っています。
3、食後の歯磨き指導について
次に歯磨きの指導ですが、歯ブラシをどう使わせるか、歯ブラシの痛い感触を嫌がって、絶対に口を開けない子どももいます。また、あの歯磨きのチューブの味を嫌がるという子もいます。歯磨きの方法は、今はもうローリング法という方法はあまり言われなくなり、昔ながらの横磨きで、バスー法という磨き方がよいとされています。歯と歯茎の間に粘液性のバイ菌がこびりついているので、そこを小さめの歯ブラシを使い磨きます。歯磨き粉も米粒ぐらいで充分なのです。嫌がる子どもは全くつけなくても良いです。何とか歯ブラシを口の中に入れることから始めるわけですが、これはどうしても幼児期からの習慣として定着させておくことが重要です。幼児期というのは普通の子どもでも歯ブラシは痛いから嫌がります。何か異物感もあるようです。
最初は噛まれないように気を付けながら、お母さんの指でマッサージしてあげる。それに慣れてきたらガーゼでふいてあげる。幼児なら仰向けに寝かせ口を開けさせ、歯ブラシを口の中に入れていくことから慣れさせていく、そして歯ブラシ指導に結びつけていくといった段階的指導が重要になります。
Ⅱ、排泄指導について
次に排泄の問題に入っていきますが、知的障害の子どもはその自立が一般に遅れますが、自閉症の子どもはあまり遅れることなく自立します。しかし、特有のいろいろな問題を起こす場合があります。こだわりと特定のものの恐れが原因で、家以外のトイレには絶対に入らないとか、家でもトイレではしない。それもある時期まできちっとできていたのに、急に入らなくなったとかいう子どももいます。また、パニックを起こす子どもで、パニックの途中あるいは直後に失禁をしてしまう子どももいます。また、重度の知的障害を伴う子どもの場合、感覚遊びの延長で自分の排泄物をこねて遊ぶ、あるいはオシッコで遊ぶことがごくわずか見られます。また、大便をした後のお尻を上手にふくことがなかなかできなくて、いつも少しパンツを汚す。また、トイレの和式・洋式にこだわる子どももいます。排泄指導の前提としましては、先程申しましたように、生活リズムを整えることが基本的に大切にします。ある程度の運動をして寝る時は寝る。もう一つは偏食のことですね。偏食の強い子どもはだいたい便秘気味です。偏食が改善されると社会性とか、排泄の面でも便通が良くなるということが見られます。お尻がきちっとふけないという子どものためには、ロールペーパーを使うというよりは、普通のちり紙を用意してあげて、それを折って重ねて置き、その回の便質(硬いか軟らかいか)にかかわらず、5回だったら5回と尻をふく回数を決めるのです。一般にロールペーパーは1回量の判断が難しいのです。
女子の場合は、特に小さいときから用便のふき方、後始末をきちっと教えておくことが後の生理の指導に役立ちます。また、男子の場合、20才を過ぎてもズボンをおろし、お尻をほりだしてオシッコをしている人がいますが、ある時期になりましたら、チャックをおろし前からする指導をしていかねばなりません。
では、トイレで排泄する指導をしていくにはどのように取り組んでいくのかですが、これも細かな部分はケースバイケースで考えていかないと行けません。大雑把ではありますが、トイレ指導の代表的プロセスをまとめておきます。
Ⅲ、お手伝いについて
お手伝いのことについてですが、やはり将来のことを考えるとと、何でも良いから家のお手伝いをさせることは大切です。台所のこと、洗濯のこと、又洗濯物の整理、掃除などがあります。しかし、子どもがお手伝いをしてくれると、よけい時間がかかって又もう一度やり直しをしなければならないということもあるのですが、なんと言っても毎日の積み重ねが大切です。障害の重い子どもの場合、新しい一つのことを身につける、教えるということは本当に大変ですが、一日一日持続させ、積み上げていくことが、子どもに生きる力をつけてあげることになり、子どもに大きな財産を残すことになるのではないかと思います。たとえば、お手伝いの中でお掃除のことですが、本来掃除というのは非常に難しいですね。家庭では電気掃除機でやるわけですが、会社・作業所・授産施設で仕事をする場合、ほうきとちりとりを上手に使うことが大切になってきます。勿論、学校ではほうきとちりとりでお掃除をしているはずなんですが、家庭でもほうきとちりとりの使い方を教えてあげて下さい。そのことが現場実習で大きく評価された子どもがいます。台拭きとか雑巾の使い方も、家庭でどしどし教えていただけたらと思います。
Ⅳ、こだわりへの対応について
よく感じることなんですが、すべての人間の行動や動作には、必ず何らかの意味があるんじゃないかということです。同じような行動を繰り返す、特別なものに特に強い興味を示す、といったことにも、彼らなりに必要性や意味があるんじゃないか。ただ、それが一般的レベルを越えてしまっていて、理解しがたい状態になっているから、異常とか問題行動として扱われているだけなんじゃないかなって。
こだわりをやめさせようとするばかりでなく、周りが受け入れられる程度や状態になることを目指して軽減していくことを目指す方が理にかなっているのではないかと思います。必要があってやっているのなら、その必要をなくすように対応していくことも考える必要があると思います。それでも難しいならば、やれる時間帯や場所を決めて、一定の制限のなかで受け入れていくような対応もできると思います。
それがどうしても社会的に受け入れられないものであれば、その形を少しずつ変えていくような取り組みも必要となると思います。
いずれにしても、幼少時から,こだわり行動を親のコントロール下に置き,大人になってからは受け入れられないような行動は幼少時から許したり助長したりしないようにしておくことが大切だと思います。
まずいなと思われるようなこだわり行動がでてきたならば、初期段階で制御してあげれば、あまり負担なく別な形へ移行できやすいようです。
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